繊維分別リサイクル
はじめに
近年、ヨーロッパを中心に繊維のマテリアルリサイクルの機運が高まっています。
繊維のマテリアルリサイクルを行うためには、繊維素材ごとの分別が必要不可欠です。日本でも最近マテリアルリサイクルが行われるようになってきましたが、現状ではポリエステル100%の繊維のみ選別してリサイクルされることが多いようです。
そこで、弊社のラボステーションを使って、衣類をどの程度分別できるのかテストしてみました。
サンプル
サンプルとして、弊社社員の私服と作業着を用意しました。タグに表示されている繊維の組成は、綿100%、ポリエステル45%綿55%、ポリエステル65%綿35%、ポリエステル100%、ポリエステル94%ポリウレタン6%の5種類です。
これらの服を弊社ラボステーションのステージに載せ、ステージを動かしてデータを取得しました。
画像のアスペクト比が1:1になるように、ステージの移動速度とフレームレートを調整しています。
綿/ポリエステル比による分別
まず、綿-ポリエステルの2成分系で分別できるか、みてみましょう。
下図にHelios EQ32で取得した綿100%とポリエステル100%の近赤外スペクトルを示します。ブロードなスペクトルですが、綿100%に関しては1450から1600nm付近にかけて吸収(黒矢印部分)が、ポリエステル100%に関しては、灰色矢印で示したように1132 nm、1176 nm、1661 nmに特徴的な吸収がありそうです。
では、これに綿ポリエステルの混紡生地はどうでしょうか?
綿とポリエステルの吸収ピーク両方が見られます。そして、量比によってピークの強度にも違いがみられます。
これだけ違えば、分別は上手くできそうです。
分光分析では、定量性を保ったままピークの分離がしやすくなるので、微分処理が行われます。微分処理することにより色や形状による反射率の違いがキャンセルされ、綿由来のスペクトルとポリエステル由来のスペクトルが容易に判別できます。下図に1次微分スペクトルを示します。
ベースラインが揃い、ピークが強調されて分かりやすくなりました。先程の近赤外スペクトルの矢印位置が、この図の破線矢印の間の0の位置(ゼロクロス位置)に相当します。場合によっては、さらに微分して2次微分スペクトルも使います。分光分析としては、2次微分スペクトルのピーク位置(もしくは1次微分のゼロクロス位置)に意味がありますが、応用としては強度の高い1次微分スペクトルの方が使いやすい場合が多いようです。今回もこの1次微分スペクトルを基にクラス分けしてみましょう。クラス分けには、EVK SQALARの「Class32」使用しました。
プリント部分を除いた生地部分は、繊維の組成によって上手く分別できました。
ポリエステル94%ポリウレタン6%の服が混ざった場合
では、次に残りのサンプル、ポリエステル94%ポリウレタン6%の服が混ざった場合どうでしょうか?
ポリエステル94%ポリウレタン6%とポリエステル100%のスペクトルは非常によく似ています。
1次微分スペクトルでの違いは、ポリエステル94%ポリウレタン6%の方がピークが大きいこと、若干ピーク波長がシフトしていることでしょうか。では、このデータを基にEVK SQALARの「Class32」でクラス分けしてみましょう。
ポリエステル94%ポリウレタン6%とポリエステル100%の区別もできました。
ただし、ピーク強度の差は、サンプルの形状や反射率に影響されやすいので、今回の学習データをもとに他のポリエステル94%ポリウレタン6%の服を分別しようとした場合、上手くいかないかもしれません。
その場合でも、様々な服で学習することで、分別精度を上げることができます。テスト段階でここまでできれば、十分可能性はあります。
手動選別デモンストレーション
では、この学習データを使って、実際に手動で分別デモンストレーションを行ってみました。
ステージを固定したまま、手で服を動かして撮影しています。
カメラの下をくぐらせるだけで、どの組成かわかるので早くて簡単です。
このようにEVK HELIOSを導入すれば、タグを見て分別する手間を節約できます。
残念ながら、ポリエステル94%ポリウレタン6%の服に関しては、場所によってポリエステル100%と判定されてしまいました。
この2つを確実に選別するには、学習サンプルを増やすなどの改善が必要かもしれません。
それ以外の服に関しては、学習通りに判定されました。
今回はテストのため、フレームレートは低目に設定していますが、もっと上げることもできます。
設備投資額は増えますがラインに服を流して、仕分けを自動化することも可能です。
EVKの製品群を使えば、仕分け用のトリガー信号を出力するところまで出来るので、機械的な仕分け装置を用意するだけで実現できます。(詳しくはこちらを参照してください)
綿/ポリエステル比による定量疑似カラー表示
ここまでは、1次微分スペクトルを使ったEVK SQALARの「Class32」による疑似カラーイメージングでしたが、EVK SQALARでは、「EC3」を使えば、綿とポリエステル比の違いをグラデーションで表示することができます。今回は、綿100%を赤色に、ポリエステル100%を青色に設定しました。
綿ポリエステル混紡生地に関しては、中間の紫色に表示されており、綿とポリエステルの混紡であることは分かりますが、ポリエステル45%とポリエステル65%の区別は肉眼では難しいです。
EC3モードの場合、ディテールが残るという利点がありますが、服の繊維組成による分別用途にはClass32によるクラス分けの方が使いやすいです。
おわりに
今回は、普段よく使われている綿ポリエステルの混紡の分別を行いましたが、ウールやアクリルの分別なども可能です。
このように近赤外ハイパースペクトルカメラEVK HELIOSを使えば、これまで難しかった測定が可能になります。
測定してみたいサンプルがありましたら、お気軽にお問い合わせください。
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