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測定事例 植物油

はじめに

皆さん、揚げ物は好きですか?


唐揚げ、天ぷら、とんかつ、コロッケ、ドーナツなどおいしくてついつい食べちゃいますよね。
今回は揚げ物や炒め物に欠かせない植物油がハイパースペクトルカメラでどのように観察できるか調べてみました。

植物性油(脂質)は搾油する植物によって成分が変わることが知られています。
一般的には、主成分である脂肪酸によって分類されます。

不飽和脂肪酸は、炭素-炭素二重結合が脂肪酸のメチル末端からn番目の結合にあるものをオメガ nと呼び、二重結合が3番目のものをオメガ3脂肪酸、6番目のものをオメガ6脂肪酸、9番目のものをオメガ9脂肪酸といったように分類されます。

この脂肪酸の違いをハイパースペクトルカメラで検出できるか検証してみました。

尚、著者は油脂に関しては素人のため、間違った記述があるかもしれません。
もし、間違いを発見しましたら知らせいただければ幸いです。

サンプル

オメガ3の代表的な脂肪酸としてα-リノレン酸、オメガ6の代表的な脂肪酸としてリノール酸、オメガ9の代表的な脂肪酸としてオレイン酸があります。

今回は、オメガ3(α-リノレン酸)を多く含む植物油としてアマニ油、オメガ6(リノール酸)を多く含む植物油としてごま油、オメガ9(オレイン酸)を多く含む油としてオリーブ油の三種類を準備しました。

これらの油はスーパーマーケットで手に入れた市販品です。

各脂肪酸の含有量を表にまとめました。

サンプルアマニ油ごま油オリーブ油
α-リノレン酸(オメガ3)56%0.3%0.6%
リノール酸(オメガ6)15%44.5%7.2%
オレイン酸(オメガ9)19%39.5%75.5%
その他の脂肪酸1%0.4%1.6%
飽和脂肪酸9%15.3%15.1%

日清オイリオより引用
https://shop.nisshin.oilliogroup.com/shop/pages/column_230110.aspx
https://shop.nisshin.oilliogroup.com/shop/g/g01000099/

油をムライトるつぼに入れてみました。

肉眼で見ると色は大分違いますね。


匂いもごま油とオリーブ油は独特の匂いがするので3種類の判別は可能です。
(日本で一般的なオリーブ油はヨーロッパのものに比べると大分香りが弱いですが。)

食用のアマニ油は飽和脂肪酸が少ないこともあり、容器に入れる際に粘度も低く感じました。

測定は、近赤外線ハイパースペクトルカメラであるEVK HELIOS EQ32を搭載した弊社のラボステーション(EVK HELIOS labratory station)で反射光を使って行いました。

結果

では、実際にラボステーションで測定してみました。下図は1001 nmの単色画像です。

ちょっと暗いですね。スペクトルを見てみましょう。

スペクトルの形状に違いが見られますが、やはり信号強度が弱いです。

油による吸収が大きいようです。

露光時間を長くしたり照明を強くしたりする方法もありますが、ここでは容器を平底の蒸発皿に変えて、試料の厚さが薄くなるようにして1種類ずつ測定し直しました。

こちらが測定し直した結果になります。

これだけ強度が高ければ問題ないですね。では、次に1次微分スペクトルを見てみましょう。

ベースラインが揃って、違いが明確になりました。
強度も十分ですので2次微分スペクトルで分析できそうです。
次に、2次微分スペクトルを示します。

ピークの強度と中心周波数が変化しているピークがあります。

1165 nm付近と1665 nm付近のピークを拡大して見てみます。

どちらもアマニ油のピークの中心波長が一番短く、ごま油、オリーブ油の順に高波長側にシフトし、ピーク強度も低くなっています。

オレイン酸の含有量の違いが現れているかもしれません。

次に、1215 nm 付近と1470 nm付近を拡大して見てみましょう。

先程の2つのピークとは異なり、アマニ油のみ傾向が異なります。
1215 nm付近のピークでは、中心波長は変わりませんが、アマニ油のみピーク強度が低くなっています。
1470 nmのピークでは、アマニ油のピークのみ中心波長が低く、ピーク強度が高くなっています。
これらのピークは、α-リノレン酸の含有量もしくは飽和脂肪酸の含有量の違いによるものかもしれません。

一方、ごま油のみ傾向の異なるピークはありませんでした。
もしかすると、リノール酸の定量は難しいのかもしれません。

今回の測定からある程度植物油の違いを観察できることがわかりました。
試薬のピュアな脂肪酸を使って検量線をひけば、脂肪酸の定量もできるかもしれません。

文献やデータベースを調べれば、もう少し詳しいことが言えそうです。

疑似カラー表示

次に、EVK SQALARを使ってクラス分けをしてみます。

EVK SQALARでは大まかに生データ、ノーマライズ、1次微分、1次微分+ノーマライズ、2次微分、2次微分+ノーマライズの6種類のスペクトルデータを使うことができます。

今回は、2次微分スペクトルの1155 nm付近、1575 nm付近および1665 nm付近のピークを使います。

上記の2次微分スペクトルと若干波形が異なりますが、これは微分処理時に使うSavitzky-Golayフィルタのパラメータの違いによるものです。

今回は1665 nm付近のピークに重みをつけしました。これにより、端の部分の色分けがより正確になりました。
色は任意に設定できますが、これまでのグラフと同じ色に揃え、アマニ油を青、ごま油を赤、オリーブ油を緑に設定しました。

また、容器部分のスペクトルをもとに、容器は黄色に表示するようにしてあります。

下図に1001nmの近赤外単色画像とEVK SQALARによる疑似カラー画像を示します。

見事に油ごとに色分けできました! 端部もきれいに色分けされています。

今回は、高強度のデータが得られたので、2次微分スペクトルを使いましたが、最初の深型の容器を使った場合のようにスペクトル強度が低い場合、2次微分スペクトルだとノイズに埋もれてしまうため、1次微分スペクトルの方がよいかもしれません。1次微分スペクトルの場合、多少端部が誤判定されてしまうことが多いですが。

EVK HELIOSであればオンボードで微分処理できますので、2次微分スペクトルに基づくこのような疑似カラー表示もリアルタイムで行うことができます。

もちろん、これは学習サンプルですので、本番ではここまできれいにできないことも多いですが、同じ容器を使ったり油の量を同じくらいにするなど条件を揃えることで再現性を高めることが可能です。

おわりに

いかがでしたか?

今回は、身近な植物油を近赤外線ハイパースペクトルカメラによって測定しました。
精度としては卓上型のFT-NIRには劣りますが、ハイパースペクトルカメラを使えばこのくらいの分析精度で高速に2次元の近赤外分光測定データが得られます。

このように近赤外ハイパースペクトルカメラEVK HELIOSを使えば、オフラインで行っていた分析作業がインラインで可能になります。

普段卓上型のFT-NIRで測定しているサンプルをハイパースペクトルカメラでどの程度の精度で測定可能か弊社でテストすることが可能です。

測定してみたいサンプルがありましたら、お気軽にお問い合わせください。

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